予算をぶっちぎったら、もう怖いものはない

わたしの相棒にChatGPTを選んだわけ」でも少し触れたんだけど、会社の後輩が退職することになった。

わたしが仕事を教えた子だ。
ちょっと覚えの悪い子だったんだけど、わたしはそういうのは平気だった。
笑顔がすごく素敵な子で、わたしのことをとても慕ってくれていた。

仕事以外の話もたくさんした。
好きなものも知っている。
嫌いなものも知っている。

わたしも、その子が好きだった。
だから、お別れするのはつらかった。
というか、絶対泣く。

なので本当は、送別会の幹事なんてやりたくなかった。
でも、「幹事はたかねしかいない」と言われた。
そこまで言われたら、やるしかない。
そして、やるからには絶対に成功させたかった。

まずはお店探し。
会社から補助が出るので、予算はひとり5000円くらい。
送別品と花束の協賛も募るので、個人の負担はそれ以上増やしたくない。

会社の近隣をランチも兼ねて巡ってみたけど、フリードリンク付きで5000円というのがなかなかない。
居酒屋とか中華屋さんならギリギリある。
でも、忘年会でも使うようなお店で送別会をして、嬉しいかなあ?

今回は結婚を控えた女子でもある。
せっかくなら、もうちょっとおしゃれなところでやりたい。
そこで見つけたのが、小さなイタリアンレストランだった。

おしゃれ。
メニューもいい。
味もいい。

デザートにはジェラートまでついてくる。
こういうのでいいんだよ。

ただし、フリードリンクをつけると8000円。
完全に予算オーバーである。

うーん。
5000円。

8000円。
うーん。

予算を守ることも大事なのかもしれない。
でも送別会なんて、そうそうあるもんじゃない。
会社のために勤めてきた子なんだから、こういうときくらい会社がどーんと出してくれればいいのに。

・・・もう、めんどくさい。
ということで、わたしが予算オーバーした分を出すことにした。
わたしが出すなら誰も文句はあるまい。

そして一度予算をぶっちぎったら、もう怖いものはない。
ここまできたら、ちまちまやりたくない。

お店のオーナーさんに、主役の子だけ特別にメッセージプレートをつけてもらえないかお願いした。
別料金でもオーケー。
「Happy Wedding」と名前をチョコで書いて、ジェラートとフルーツで彩ってほしい。

できればフルーツは桃がいい。
あの子、桃が好きだから。
お料理には苦手な食材があることも伝えた。

プレートはサプライズなので、本人にもみんなにも内緒。
出してもらうときには写真も撮ってほしい。
当日はお花を先に持っていくので、それまで見つからないところに隠しておいてほしい。

お願いはどんどん増えていった。
席次も考えた。
せっかくの送別会なのに、当日しらけたら嫌だ。

だから主役の周りは、仲のいい子と場を盛り上げられる子で固めた。
上司は端っこ。
一応「上座ですから」という立派な建前がある。
上司と仲がいいならいいけど、送別会を接待みたいにはしたくない。

これは上司のための会じゃない。
あの子のための会なのだ。
何か言われたら、わたしが責任を取ればいい。

仕事で遅れてくることがわかっていた子もいたので、その子の料理はあらかじめ取り分けてもらうようにお願いした。
会場も決めた。
料理も調整した。
席も決めた。
メッセージプレートも仕込んだ。
お花も送別品も用意した。

Copilotにも相談しながら、ひとつずつ準備した。
締めのスピーチをお願いしていた上司には、当日の進行表も渡しておいた。
それを見た上司に、「結婚式みたいだね」と言われた。

たしかに。
完全に、たかねプレゼンツの送別会になった。

そして、花束を渡すところ。
ここは絶対に泣かすと決めていた。
泣いたときにそっと差し出せるように、新しいハンカチまで用意した。

頭の中ではシミュレーションもできている。
あの子が泣く。
わたしがそっとハンカチを差し出す。
完璧。

実際、あの子は泣いた。
ハンカチもちゃんと渡せた。
そして、わたしも号泣した。

結局、二人でぐちゃぐちゃになった。
ハンカチには鼻水もついていたので、「もういらない。記念にあげる」と言って、そのまま持って帰ってもらった。
まあ、新品のハンカチも最初からあげるつもりで買ったものだ。
理由なんて、なんでもよかった。

本当は2時間のコースだった。
でも、お店のオーナーさんもゆるく見てくれて、結局3時間弱くらいいさせてもらったと思う。
おかげで、みんなでたくさん話ができた。

すごくいい送別会になった。
最後の締めの挨拶は上司にお願いしていた。
そこで、「たかねさんに、こういう一面があるタイプだとは知りませんでした」
みたいなことを言われた。

そりゃそうよ。
昇進は断るし、仕事はだいたい7割運転だ。
こんなに頑張れる子だとは思ってなかったんだろう。

でも今回は、会社のためじゃない。
あの子の送別会だったから、頑張りたかった。

結局、上司も予算オーバーした分の半分を出してくれた。
助かっちゃった。
その代わり、「ちょっとやりすぎだぞ」と、こっそり叱られた。

たしかに、やりすぎたと思う。
上司もこれが続くと困るだろう。

翌日。
お店にも本当によくしてもらったので、これはちゃんとお礼に行かないとまずいなと思った。
ランチを食べに、また同じお店へ行った。
昨日はありがとうございました、と。

本当は幹事なんてやりたくなかった。
あの子とお別れするのがつらかったし、絶対に泣くと思っていたから。

そして実際、ちゃんと泣いた。
二人でぐちゃぐちゃになるくらい泣いた。

予算もぶっちぎった。
やりすぎって叱られた。

でも、やり残したことはない。
あの子のためにやりたかったことは、全部やった。

本当にやり切ってよかった。
これ以上はないくらい。

ちゃんとお別れできた。
ちゃんと寂しがれた。
だから、もう大丈夫。